月曜の朝、定例の職員会議を終えて各々が授業の支度を始めていた。それは銀八と高杉も例外ではない。いつも通り、銀八はよれた白衣を身に纏い、高杉はジャージ姿で今日の授業のことを考えていた。
ゆらゆらと椅子を回していた高杉は名簿を見ながら、心の底から染み出したような溜め息を吐いた。その眉間には皺が出来ている。
「ちくしょう、何が楽しくて週の初めから体育なんざやんなきゃねんねーんだ」
ぺらぺらと出席簿をめくりながら高杉は机に頬を寄せて、そう吐き捨てた。面倒くさいと愚痴を零している高杉を横目に、銀八は教科書を見ていた。無視を決め込んでいる。だが高杉はそんな銀八の態度など気にすることなく、一方的に言葉を続けた。
「ゼッテェ来年は月曜に授業入れねェ。少なくとも月曜1限には授業入れねェ。今決めた。そう決めたわ。銀八、てめぇ証人な」
「俺は体育、特にてめーの担当する体育の後に授業入れねェって毎年心に決めてんよ。叶ったことねーけど」
視線すら向けられずにぽつりと返ってきた言葉に高杉は顔を上げた。訝しげな目を銀八に向けたが、銀八は素知らぬ顔で教科書に付箋を貼り、ノートを開いている。「は? なんで俺の後はヤなんだよ。着替えが間に合ってねぇとかは生徒の責任だからな。俺ァちゃんと間に合うように授業を終えてんぞ」
「そうじゃねーよ。てめぇも覚えがあんだろ。体育の後の国語とか、起きてられる方が奇跡だろうが。特に女子とか燃え尽きてんぞ、体育の後」
「…特に走らせてる覚えもねぇけどな」
それに基本女子は見ていないし、と続ける高杉は身に覚えのないことに眉を寄せ、考え込んでいた。そんな高杉を視界の隅に入れながら、銀八はすっかり授業の支度を終えた。
高杉は月曜1番の授業を面倒くさそうにしているが、銀八も気持ちは同じだ。むしろ、銀八の憂鬱はこの後の2時限目に待っている。高杉の授業を終えた生徒達を受け持つ。先程銀八自身が言ったように、格好の昼寝タイムにされてしまう授業を思うと気も重くなる。
寝たい奴は自己責任で寝ればいい。変におしゃべりをされるより、余程授業進行の邪魔にならない。だが、教室全体を包み込む眠気は銀八にさえもその魔の手を伸ばしてくるのだ。それが敵わない。
席を立った銀八に合わせ、特別準備をしている様子もなかった高杉も銀八の言葉についてもう考えるのはやめたらしく、出席簿を手にして笛を首から下げた。そしてぽつりと呟く。
「先週はバレーボールだったから、今日はめんどくせぇ、走らせるか」
「言ってるそばから人の授業を潰しにかかるとか、反抗期ですかコノヤロー」