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この話はニョタ化です。にょ高杉です。そして同級生設定。
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難しいことはよくわからない。世の中の動きだとか政治とか経済とか、そんなのの仕組みがわかったってだからどうだというのだろう。
大人たちの掲げるマニフェストとやらはなにやら耳触りのいい言葉が並んでいるけれど、そんなものにも全く興味なんかない。そもそも有言不実行より無言実行の方が何百倍もカッコいいと思ったりする。
けれど俺も、たった一つ、たった一つだけど絶対に果たすことを約束するマニフェストをおまえに掲げるよ。
「公民のよォ、テスト範囲広くね? 社会のしくみとか俺ら下っ端は知らなくてもお偉いさんが勝手にやってくれっと思うんだけど」
気だるげな銀時の言葉に高杉は教科書から視線を上げずに口を動かした。
「テスト範囲広いのは同意すっけど下っ端に俺まで入れてんじゃねーよ毛玉。俺は小さくても頭に立つ人間になるんでね」
「ふーん。お高い志なこって。っていうかマジ行政とか意味フすぎて俺のテスト終わってんだけどどうしたらいいと思うよ」
「終わってんのはてめぇの人生だろ。とりあえずヅラにでも聞いとけ。あいつ政治得意分野だろ。なんたって将来の政治家様だ」
「あれが国の頂点に立ったらこの国も終わりだと思うけどな」
「違いねぇ」
銀時が見つめる先、ずっと銀時の話になど欠片も興味がなさそうだった高杉の口元が初めて緩んだ。それを表情変えずに銀時は見つめる。銀時の視線に気づいていないのか、高杉は教科書から目を離すことはなく、二人の視線が絡む前に銀時はその眼を窓の外に向けた。
窓ガラスの向こう側に広がる空は赤く焼けている。ついでに時計に目を向ければ、時計はもう下校時刻が迫っていることを告げていた。今日の銀時の勉強はあまりはかどらなかった。そもそも余りやる気がないのだから仕方ないだろう。
そもそも一緒に勉強して、分からないところを教えてくれると言ったはずの高杉が何故銀時の勉強している公民ではなく数学をやっているのか。そして何故分からないところを聞こうとすると邪魔するなと言われるのか。銀時には到底理解できなかった。
ちらりと机の上の教科書に視線を落として、その内容を理解することなくざっと視線で紙面を撫で上げる。
(公約、なぁ…)
スピーカーのスイッチが入る。下校時刻を告げるチャイムが鳴り響いた。
「公約、公約なぁ」
「さっきからうるせーよ。それだけ覚えてればかつるとか思ってんじゃねーだろうな。それ大きな間違いだからな。せいぜい2点だからちゃんと全部覚えろよ」
「あぁ、もうテストは捨てたわ。大丈夫、今までも知らずに生きてこれたから」
「こういう馬鹿が上の奴らに搾り取られて捨てられてゴミのようになるんだな…、あぁ悪い、てめぇは搾り取れるもんもねーか」
「…なにその毒舌。なんなのおまえ生理前ですか? 生理中ですか? コノヤロー」
「毛根ごと爆発しろ天パ今すぐにだ」
二人で帰路につきながら他愛ないやりとりを交わしている。辺りはもう薄闇に包まれている。大分短くなった日が冬の訪れを黙して告げていた。
僅かな夕焼けの残滓が二人を赤く染める。薄ら輝く遠い空からの星明かりは頼りなく、街灯に負けていた。最近も変質者が出たと言う人気のない川べりを肩を並べて歩いている。
この道は銀時の通学路ではない。高杉の通学路だ。こんな人に辛辣な言葉を吐き、柔らかな自分の心を情け容赦なく傷つけるような奴でも一応外見は女子なので、家まで送ってやるべきだろうと思っている。だが口にすれば何を言われるか分からないし、恩を売っていると思われるのもすっきりしないのでスーパーに用があることにした。高杉は深く追求してこなかった。
どちらからともなく口を閉ざし、ふと会話が途切れる。姿の見えない鈴虫の鳴き声と足音だけが二人の鼓膜を揺らし続ける。濃くなった藍色を見上げていた銀時は、一度深く息を吸い、溜め息を吐いた。開いた口を閉じずに言葉を発する。
「よし、決めたわ」
「?」
「俺の公約は、後悔はさせない、だ」
「…?」
唐突な銀時の言葉の真意を掴みあぐね、高杉は眉を寄せて銀時に訝しげな視線を向けた。銀時は少し首を傾げてそれを受けとめる。一歩、二歩と先に進み、踵を返して振り返った。足は止めない。後ろ向きのまま歩き続けた。
「公約。マニフェストってやつ」
「…立候補でもすんのか? てめぇが?」
「おう。するする」
「っていうか、なんだよその曖昧なマニフェストは。意味わかんねぇ」
「だってしゃーねーじゃん。哀しい思いはさせねーとか、泣かさねーとか、んな守れなさそうなこと言ったって公約違反になっちまうし」
「なんにせよ変な公約だな」
「いいんだよ。万人向けじゃねーから。これ一人向けだから」
くるりと銀時は向きを変えて前を向いた。そのまま数歩歩いて足を止める。
「? 意味が…」
「俺は、後悔はさせません」
銀時の足が止まる。それにつられるように高杉の足も止まった。改めて銀時は高杉に向き直る。普段の死んだような眼の中に常にない表情を認めて、高杉は少し驚いたような戸惑ったような顔をして銀時を見つめた。困惑を隠す為か、閉じていた唇が開かれた。
「銀…」
「ってな訳で」
「俺に清き愛の一票、入れてくんねぇ?」
RADWIMPS『マニフェスト』
(くさすぎんだよ馬鹿)
(えぇー…)