全て壊れろと願ったあの日、おまえも同じ気持ちなら良かったのに。



「だーから、なーんでそうなんだっつってんだよ!このクソ天パ!!」
「あーもううっせーうっせーうっせー!!!痛い目みないで済ませてもらって何 が不満だこのチビ助!!何?痛い目合わせてもらいてーの?!おまえMですかコ ノヤロー!!」
「気持ち悪いこと言うな!誰がMだ!!」
キャンキャンと吠え合う二人を止めるものは誰もいない。
事の始まりは高杉が銀時に試合を挑んだところからだ。
道場では桂にも勝った。次はお前の番だと意気揚々と高杉は銀時に竹刀を投げ付 ける。
面倒くさそうにしながらも応じた銀時は刀を腰に下げたまま竹刀を受け取り高杉 に向き直った。
刀を腰に下げたまま。それが気に食わず高杉は眉を寄せた。
「銀時ィ、てめーそんな重りがあったから俺に勝てなかったなんて言い訳聞かね ーからな」
「ん。平気。これあっても俺負けねーし。ってかねーと逆に落ち着かねー」
その台詞は自信に満ちているのではなくごく当たり前のことを言っているにすぎ ないと言外に物語っている。
「このヤロ…」
銀時の言葉にさらに苛立ちを深めながら高杉はぎゅっと竹刀を握り直した。
死んだ魚のような目を睨み付ける。じりじりと間合いを計り合って、一瞬で均衡 を崩した。
高杉が振り上げた竹刀を真っ直ぐ振り下ろす。銀時は受け止めて、直ぐさま繰り 出された胴を狙った一撃も軽くいなした。それでも手を休めず喉を射抜こうとす る竹刀を、銀時は少し強く弾いた。
その衝撃に高杉は一瞬攻撃の手を休めた。その隙に銀時が竹刀をもう一度したた かに打てば、高杉の手から離れた竹刀は宙を舞う。
その行方を高杉が無意識に追おうとして、直ぐさまハッとし銀時に視線を戻す。
振り上げられている竹刀を認めて、ぎゅっと堅く目を閉じた。
ふわり、そよ風を感じた。けれど、なんの衝撃もない。
そっと目を開ければ、眼前に竹刀があった。
「はい俺の勝ち〜」
なんでもないように銀時が竹刀を下ろす。そして無造作に高杉に投げ付けた。
それを受け取って高杉は俯いた。銀時はそんな高杉など気にせず背を向ける。
「だーから言ってんだろ〜。俺は負けねーって。ヅラに勝った?んなのしらねっ つの。わかったらもっと強くな…あだっ」
無防備だった後頭部に衝撃を受けて銀時が顔をしかめて振り返る。
頬と瞳をほんのり赤く染めた高杉と目が合った。
「な…」
「真剣勝負で寸止めなんかすんじゃねーよ!!ふざけんな…っ!ふざけんな!ふ ざけんな!!」
「はァ?」
握り締めていた竹刀を投げ捨てて、さらに拳を振り上げる高杉に銀時は少し慌て てその腕を取った。
そこからはもう力の比べ合いと言い合いだった。
純粋な力比べで高杉が銀時に勝てることもなく、高杉は最初の1回しか殴れなか ったわけだがあとはひたすら言葉の応酬だ。
怒りで頭に血が上っている高杉は銀時の巧みな言い回しに幾度か言葉を詰まらせ る。その度に勢いと迫力に任せて押し通そうとするも銀時はそれが通じる相手で はなかった。
あまりにもいつまでも騒いでいるから、さすがに誰かが止めようと思ったらしい 。松陽が二人の間に割って入った。
ぶすっと二人で膨れ面してそっぽを向き合う。
「俺絶対ェてめーの気持ちなんざわかんねぇ。分かりたくもねぇ」
「俺だってそうだっつーの」
キッと視線だけ向けあって火花を散らせば松陽の声が降ってきた。



「喧嘩出来るだけ幸せだと思え」
銀時との一件で不機嫌を振りまいていた高杉に桂が言う。
その言葉に反応して桂を睨み付けてみても、桂は少しも気にせず読んでいる本の ページをめくった。
「喧嘩する程仲が良いと言うだろう。何も気にせず言い合えるというのは良いこ とだと先生がおっしゃっていた」
「先生の言葉でも、そんなん嘘だな。あのクソ天パ…いつか叩きのめしてやる… 」
「またそういう…」
ギリギリと拳に力を込めれば桂がもう知らないと言わんばかりにまたページをめ くった。



あの頃はこんな未来、想像もしなかった。そっと無くした目に触れる。
きっと一緒。ずっと一緒。それはするまでもない約束事。
幾度となく繰り返された気持ちのすれ違いを気にしなかった油断。
多分俺らはすれ違ってはいけないところですれ違った。
ただ、それだけの話。



「気持ちのすれ違いはあっても 終わりはこないと思ってたのに」
UVERworld 優しさの雫