煙管からたなびく一筋の煙を目で追っている高杉を見つめて、銀時は呟いた。
「高杉って猫みたいだよな」
いきなりの銀時の発言に高杉は眉を寄せた。
「あぁ?何処がだよ」
「なんつーの?雰囲気?」
「意味わかんねぇ。っつか俺は猫より豹だろ。気高さが」
「怒んなよ。って、突っ込むトコそこ?まぁいいけどさ。そんなおまえが好きだよ」
よしよしと頭を撫でれば払いおとされた。
そんなところがまた猫っぽいんだけどなと銀時が内心思っていると、少し不満そ うに尖らしていた高杉の唇がぽつりと言葉を紡いだ。
「…どのくらいだ?」
「ん?」
「どのくらい俺が好きか言ってみろよ」
試すようなからかうような口調と悪戯な笑みとは裏腹に、瞳の奥底にちらつく真 剣さを銀時は見取った。
「んー…猫の額くらい」
「狭っ。足りねぇな愛が」
「何言ってんの」
「あ?」
銀時はふわりと笑い、ごく自然な動作で距離を詰められた高杉が気付いた時には 額に唇の感触がした。そして高杉の視線の先で銀時は唇をつり上げた。
「キスするには十分な広さじゃん」
たった一言そう言えば高杉の目が真ん丸く見開かれた。
「〜〜〜〜っ、死ね!」
「痛っ!」
見る見る赤くなった顔色を面白がる間もなく思いきり殴り付けられて布団から蹴 り出された銀時は布団にくるまってしまった高杉を見る。
「んだよおめーがどんだけ好きか言えって言ったくせによー」
「うるせェ。どっか行け。消えろ」
「照れんなよ。煙管、あぶねーぞ」
「照れてねぇ」
つんけんとした返事を返しながら無造作に置いた煙管を安全なところに置き直す 白い指先を銀時は見つめた。
しばらく沈黙が落ちると、布団からくぐもった声がした。
「…黙ってんじゃねーよ。なんか喋れ」
「うるさいっつったくせに」
「いいからてめぇはなんかくだんねぇ話並べときゃいいんだよ」
「はいはい」
何を話したものかなと頭を巡らせながら頭までかぶった布団のなかで神経をこち らに向けているだろう高杉を思い声もなく笑う。
「早くしろよ」
「あー…、んなこと言われてもよォ。じゃあ結野アナの話で」
「却下」
「てめ、無理やり話題作らせといて我が儘言ってんじゃねーよ」
「うるせぇ。他のこと話せ他」
「えー…」
また新たな話題を探しながら、先ほどのリンゴのような赤い頬を思い出した。
唇にキスは平気でさせるくせに、額にキスしたぐらいであんな反応を返すとは正 直思っていなかった。
多分今日の高杉はもうへそを曲げてしまって触らせてもくれないし、下手したら近寄ら せてもくれないだろう。でもきっと明日には気が変わっているに違いない。
銀時は布団からわずかに出た黒髪を見つめた。



(あぁ、今キスしてぇな)