メールの返事が来ない。野郎、今日は他の男とお楽しみですか、あぁそうですか。
一体なんのつもりなのか、高杉は他の奴と会ってるときは絶対にメールを返さない。電話も出ない。ちなみに俺といるときは平気な顔して、時には薄笑いさえ浮かべて返信してる。てめぇそんな顔俺と居るときはそうそうしねぇだろなのにメールの画面にはするとかナメてんのかコルァとやっぱり喧嘩になりました。えぇ喧嘩しましたよ。取っ組み合いのな。何歳児ですか俺らはって話だ。
ついでに言うと、高杉の携帯を見たからメール相手知ってるとかそんなんじゃねーからね。銀さんさすがにそんなことする奴じゃないから。
なのに何故俺が、返事を返さなかったり、笑いながらメールしたりしているときの高杉が俺以外の恋人と会ってたりお楽しみ中だったりメールやらをしたりしているのを知っているかと言えば、本人が悪びれることもなくあっさり口にしたからだこのアバズレビッチが恥を知れ。
で、メールの返事がないとつらつら俺なんでこんな奴にこだわってんだろうと思ってしまうわけだ。人の心は理解不能ですよ全く。
そんなわけでどんなわけで、とにかくぼっちで寂しい俺はぷらぷらとコンビニまで菓子でも買いにきたわけだ。
雑誌立ち読みしてなんか甘いモン買って帰ろうかなと思ってそっちに足を向ける。周りには全く気を配っていなかった。
「おっと」
「あぁ、すんません」
人にぶつかった。口をついて出た謝罪の言葉の後、相手を確認すれば野郎だった。ここでボインのねーちゃんとフォーリンラブだったらあんなド淫乱な変態とはさっくり縁を切れたかもしれないのに、残念ながら野郎だった。
電話中らしい兄ちゃんは俺が悪いにも関わらずこちらこそすいませんと軽く謝罪してくれた後、電話の相手との会話をまた始めていた。
「…あぁこっちの話。人とぶつかっちゃってさ。どこって、コンビニ。わざわざむさ苦しいところにお越し頂くんだからお茶請けくらい用意しとこうかなぁって。え? あぁ、ハハ、分かってる。今ちゃんとカゴに入れたよ。大丈夫」
なんとなく目で追っていたそいつは笑いながらゴムをカゴに放り込んだ。朱色の髪した優男、まだ10代かな若いっつか幼いっつか。…誰かに似てる気がすっけど誰だろ。まぁゴムは付けなきゃですよねもし万が一の事態に責任とる気がないならな。まぁ俺の場合、そんな責任もとれないですけどっつか責任が生まれませんけど。でもゴムはつけてます。男としてそこはね。うん。
そんなことを考えながら俺は目をそらして冷蔵コーナーに足を向けた。が、すぐ立ち止まった。
「じゃあお待ちしてます。タカスギさん」
耳が拾ったその音に反応して、俺は思わず振り返った。自分の名前を呼ばれて反応しちまったってくらい、当たり前のように振り返ってた。
タカスギとその名を口にした男と目が合う。そのとき俺がどんな顔をしていたか分からない。男は笑ったまま少しだけ首を傾げてみせた。
「なにか?」
「…いや。なんでもねーわ」
話せることなんてなんもねぇし。今のタカスギって高杉晋助ですかなんて聞いても仕方ない。だったらどうすんだよ、どうもできねぇだろ。それにただの同姓さんかもしれないし。
俺は顔を逸らして目的のプリンを手に取った。奴はそのままカゴをレジに持って行って、イケメンくんだからかゴムをレジに通した女子店員にちらちら下世話な視線を向けられながらも素知らぬ顔して笑みを崩さずコンビニから出て行った。
後をついて行ってみようか。一瞬だけ考えて即座に却下した。そんな真似してどうする。もっと惨めになるだけじゃねぇか。
しかし年下のイケメンくんね。そういやあいつの部下にも年下のイケメン? いたな。グラサンかけてるから顔がよく分からなくてイケメンって言いきれねぇけど。あの面食い尻軽野郎が。全くしょうがねぇな。
「…しょうがねぇのは俺か」
ぽつりと零れ落ちた呟きは余韻も残さず消え失せる。そして俺は一人、コンビニ袋をぶら下げて帰路についた。