光を受け煌めく刃、それと同じ鋭さを持つ目の両方が俺に向けられていた。
『全てを守れるなんざ思っちゃいねーよ。けどな、せめて俺の刀が届く範囲くらい、守りてぇんだよ』
思い出した言葉、いつ聞いたんだっけかな。



「随分とまぁ、狭くちっぽけな思いだな」
国を救うだ仲間を守るだ、そんなことを口々に叫び己を鼓舞する風潮のなか、刀が届く範囲は守りたいなどと言う男に俺は自分でも大袈裟だと思うくらいに鼻で笑ってみたが、笑われた銀時の、諦めにも似た色を浮かべた瞳は俺ではなく何処か遠くを見ていた。
俺はそれを見て、すぐ目の前にいるこいつに何故か諦めにも似た感情を覚えたのだった。
きっともう、同じ場所で違うものを見ていた頃とお互いに変わってしまったのだ。なんとなくそう思った。
「…てめぇの守りてぇもんのなかに、俺はいんのか?」
俺の問い掛けに銀時の目が俺に向けられた。目が合う。珍しく死んでいないその目は少しばかり驚いたように丸くなっていたが、すぐにまた普段のやる気のないものに戻ってしまった。
それから銀時は腰にあった鞘に収まったままの刀を無造作に振った。それは俺のところには届かず、俺の前方の空を斬った。
「…いねぇみてぇだな」
「つれねぇな。俺のこたァ守ってくんねぇのか」
特別なんでもないことのように言われ、俺は自分でも不思議な位絡まずにはいられずにからかうように言ってやった。
悪戯な笑みを浮かべて銀時の反応を伺うが、銀時はまた少し遠い目をして俺と感覚的に距離をおいた。そして言う。
「守られたくなんかねぇんだろ、おまえは」
「………」
逸らされた瞳からはその内心を読み取ることは出来ず、俺はただぼんやりと銀時を見つめた。
あぁもう本当に駄目なんだなと漠然と思う。何が駄目なのかもわからないくらい漠然とした感覚。
何故だか無性に胸がちりちりして息苦しい。理由のない苛立ちが募って俺はその横顔を思い切り殴りつけたいという衝動に駆られた。そっと拳を作る。
だがそんな感情と直結した暴力を振るう程、俺は原始的な人間ではないつもりだ。
だから、俺は笑った。
「よくわかってんじゃねーか」



守られる位なら、傷つき死んだほうがマシだ。確かにそう思っている。
だが、守ってもらわないのと、守ってもらえないのは別の話だ。なぁそうだろう。だから。
戯れて口づけ合う。俺からの口づけを、どんな気持ちで銀時が受け入れているのか、俺は知らない。ただ拒否されたこともないので俺は気が向けば銀時に口づけてみる。
俺のこの両の手で白い頬を包み、空色の瞳を覗き込みながら俺はニィと笑って言ってみた。
「この距離なら、おまえの守りたいもんの中にいるなァ、―――俺も…」
「―――………」
親指でなぞった唇が音を紡ぐ前に、俺は身を翻して銀時から離れた。そうして足を踏み入れる。
銀時があの日引いた、見えない境界の向こう側に。
くるりと振り向いて、俺は笑う。
「なんてな」
そうさ、おまえが俺を守らないんじゃない。俺が守ってもらわないのさ。
そんな強がりを胸に秘めて、俺は銀時に背を向けた。



ふざけたパラシュートから目を逸らし、俺は船のなかに戻る。
ガキと訳のわかんねぇ白い化け物、それにヅラ。
それがてめぇの守りてぇもんか?銀時。
随分とまぁ、大事にしてるみてぇじゃねぇか。いい心掛けだ。大切なものは手放しちゃいけねぇ。俺らがあの人から教わった最後の教えだ。けどな。
そんなの俺の知ったこっちゃねーんだよ。



(全部全部世界ごと、おまえの大切なもんも皆俺がぶっ壊してやるよ)



俺にはもう手放せねぇもんすらないから。失うことが怖いもんなんてないんだ。