「おまえ耳と尻尾隠せねーの、なぁ耳と尻尾、隠せねーの」
「………」
尻尾の手入れをしていたしんすけの前にしゃがみ込み、銀時はしんすけの耳を引っ張りながらしんすけに問い掛けます。
くいくいと耳を引っ張られて嫌そうに眉を寄せたしんすけはぷいと顔を逸らすことで銀時の手から逃れます。
その際ちょっと引っ張られる感じがして痛みを覚え、さらに顔をしかめました。
そんなしんすけに構わず銀時は続けます。
「おめー大人に化けてたときは耳も尻尾もなかったじゃねぇか。ホントはこれ無くせんだろ。無くしてみろよ。ホラホラ」
「………」
そう言って耳をいじくり回す銀時に、しんすけはひたすら顔を振って銀時の魔の手から逃れようとしていましたが、それも限界。
逸らしていた顔をくりっと銀時の方に向けたかと思うと小さな手を伸ばして銀時の手を取り、ぱかっと口を目一杯広げるとがぶりと噛み付きました。
「いぃっーーーー!!!」
「銀ちゃん、何しんすけ虐めてるアルカ!!」
「うぉああああ!!!」
そのうえ神楽に後ろから飛び蹴りをくらい、銀時は床に沈み込んだのでした。



「だってよー、こいつの髪洗ってやるときとか、耳すげー邪魔くせーんだもん。水が入ると怒るし、そのくせピコピコ動かしやがるし。なくせるんだから、なくてよくね?」
「よくないヨ!耳があった方がかわいらしいネ!」
「可愛くねーよ憎たらしいよチクショー」
しんすけを抱きしめ主張する神楽に銀時は赤くなった額に氷嚢を押し当てながらイライラを隠さずにしんすけに噛まれた手をぷらぷらと振ります。
そうすることで痛みを逃そうというわけですが、正直効果はさだかではありません。
加害者であるしんすけは神楽に抱かれながら知らん顔をしています。
「だいたい、しんすけは銀ちゃんが拾ってきたヨ。銀ちゃんが責任もって世話するアル。あるがままのしんすけを受け入れるヨロシ」
「うるせーな、捨てるって言ったわけじゃねぇだろ。ただ俺らがもっと仲良くなるためにその邪魔な耳と尻尾なくせっつってるだけなんだよ。しんすけはやれば出来る子だよなくせんだよ。だって初めて人型で会ったときなかったもん。だからまた無くしてくれりゃいいんだよ。その邪魔な耳と尻尾がなくなるだけで俺もう少しこいつとうまくやっていけそうな気ィするわ。ホント」
「銀ちゃん、今しんすけの耳と尻尾二回も邪魔って言ったアルな」
「だってマジ邪魔なんだもん」
銀時は膨れっ面して唇を尖らせますが、狐の耳と尻尾はしんすけのアイデンティティ。そう簡単には無くせないと神楽は反発します。
討論の中心、当のしんすけは相も変わらずマイペースに銀時に弄られた耳の毛繕いをしていました。



「よし、よしよしよし。その調子その調子。よーしよしよしよし、そのまま、そのままでいろよ」
しんすけの頭から銀時はそろそろと手を離しました。
銀時の手がなくなったしんすけの黒髪の下には、耳がありません。
背後を見てみれば尻尾もありません。どこからどう見てもただの子供です。
これでこれからお風呂入るとき苦労せずに済む。そう思った銀時はガッツポーズをしましたが直ぐさままたぴこんと耳が出てきました。
「………」
「………」
一瞬で表情を無くした銀時は耳に手を乗せます。耳は触れる前に引っ込められ、銀時の手の平はしんすけの黒髪を撫でます。
そしてそれと同時に尻尾がぽんと現れました。
「………」
「………」
尻尾を隠そうとすれば耳が、耳を隠そうとすれば尻尾が現れ二人は無表情で睨み合います。
「…おまえマジに出来ないの?それともわざとやってんの?」
「………」
低く押し殺した声と苛立ちを隠しきれていない視線を真っすぐに受け止めていたしんすけでしたが、不意にニヤリと唇を吊り上げました。
「このクソガキャアアア!」
くわっと夜叉の顔になった銀時に背を向け一目散にしんすけは逃げ出します。その姿には耳と尻尾、完全装備です。
どたばたと部屋中を駆け回り、それは怒鳴り込んできたお登勢に叱られるまで続いたのでした。



「諦めるアル。しんすけは耳と尻尾も含めてしんすけヨ」
「そうですよ。可愛いじゃないですか。耳と尻尾」
「おめぇらはこいつと風呂入るとき邪魔くせぇと思わねぇのか?俺だけなのか?」
「銀ちゃんだけアル。別にしんすけの耳合ってもお風呂困らないネ」
「僕の時も大人しくしてますし、耳もしんすけ自分で伏せ気味にしてお水が入らないよう気をつけますもん」
「は?」
こいつらは今何と言ったのだろう。
耳があっても困らない?しんすけが大人しい?自分で気をつけてる?
そ ん な 馬 鹿 な !
銀時はちらりとしんすけを見遣ります。視線に気付いたしんすけも銀時を見つめ返しました。
フッ。鼻で笑ったしんすけはすぐに銀時に興味をなくしたように目を逸らしました。
殴りたい衝動に駆られながらも、今そんなことをしたらしんすけを殴った力の何倍もの力で神楽に殴られるのは目に見えています。
ぐっと堪える銀時をよそに、しんすけは神楽と新八から「銀さんにももう少し気を使ってあげようね」と諭されていたのでした。
ちゃんと言い聞かせたから大丈夫。二人にそう言われて銀時はしんすけとお風呂に入りました。
椅子に座り、シャンプーハットを被ったしんすけを見下ろし、銀時はそのピンと立った耳を見つめていました。ざぶんと乱暴にお湯をかければ中に水が入ったのかキッと目を吊り上げたしんすけが耳をピコピコさせながら振り返ります。
(全然いつも通りじゃねぇかよ…!)
銀時としんすけのお風呂場の戦いは続きます。