「銀ちゃんばっかりしんすけと寝てずるいヨ!私もしんすけと寝たいネ!!」 ソファで座ってうつらうつらと寝かかっていた銀時は神楽の声に現実に引き戻さ れました。 「…あ?」 何のことかと眉を寄せる銀時に神楽はさらに言葉を続けました。 「私だって夜しんすけのことぎゅっとして寝たいネ!」 「…あー…」 夜、しんすけは銀時の布団の中に潜り込んできます。 わざわざ布団の中で丸くなっている銀時の腕を持ち上げ、出来た隙間にすっぽり と入り込み銀時に背を向けて丸くなり、腕に頭を乗せます。いわゆる腕枕です。 体温の高いしんすけはぬくぬくと暖かく重宝するのです。 とはいえ、神楽が言うようなしんすけをぎゅっとして寝ているわけではありませ ん。しんすけは途中布団を抜け出して掛け布団の上で丸くなって寝ているのです 。 それでもしんすけと寝たい寝たいと喚く神楽に銀時は言います。 「無茶言うんじゃねーよ。おめー、しんすけと寝てみ?いつかの定春何号かみた く朝起きたらしんすけカッチコッチだよ。ぬくぬくしんすけがカッチコッチしん すけだよ。やだろそんなん」 だからダメ、と言ったものの、正直銀時はしんすけを神楽に押しつけたかったの です。 その理由はしんすけが寝しなに持ってくる絵本にありました。 その夜。 「………」 いつものように銀時の腕のなかで丸くなるために銀時の寝室にしんすけがいまし た。そしていつものようにその手には絵本が握られているのでした。それも一冊 ではありません。三冊あります。 それを見た銀時はうんざりした気分になりましたが、それを受け取って読んでや ろうとします。一冊だけ手に持ち、残りの二冊は頭上に置きました。寝そべった まま、体は布団を被っているので掛け布団が絵本に影をおとし、目の悪くなりそ うです。 それにも気にせず銀時は字を勉強中のしんすけのために指で文字をなぞりながら その絵本を読み始めました。 「むかしむかしあるところに、おじーさんとおばーさんが」 しんすけはぱっちりと開けたおめめでそれを見つめています。銀時の方を向いて いる耳が時折ぴくぴくと動きました。 「で、幸せになりましたとさー、めでたしめでたし」 はい終わりーと本を閉じて電気を消そうとした銀時の腕から抜け出したしんすけ は腹ばいになったまま短い手を必死に伸ばして新たな本を手に取りました。 「………」 無言でまた読むよう訴えてきます。無視して寝ようとするとその手にしている本 でバシバシと情け容赦無く頭を叩かれる事を銀時は知っているので、銀時は溜め 息をつくとまたそれを読み始めたのでした。 それを残りのもう1冊でも繰り返して、今度こそ寝ようとしたらまたしんすけが 本に手を伸ばしたので「もう読んだろ」と本を纏めて敷き布団の下にしまいこみ ました。 しんすけは不満そうな目を銀時に向けたものの、絵本を奪われ電気も消されてし まったためおとなしく銀時の腕の中で丸くなります。 耳と黒髪が布団からわずかに覗くだけのしんすけを見て苦しくないのかなと銀時 は思いますが、何も言わずすよすよと二人して温もりを分けあって眠ります。そ のうち布団の中が暖まってきました。 もぞり、しんすけが動きます。布団から転がり出て一息つきます。ちょっと息苦 しくなったようです。 一方、銀時は温もりがなくなり肌寒さに自分を抱きます。しんすけのふわふわと した尻尾を引っ掴んでまた布団に引きずり込みたいけれど、しんすけは尻尾を乱 暴に扱うと怒るのでそんなことしません。 なくなった温もりは諦めることにして寝ようと思います。が、のし、と何かが体 の上に乗り銀時の胸を圧迫します。 「………ぅー…」 そのせいで肺が膨らまず、苦しさに銀時は目を開き体を起こしました。 ころりと上で寝ていたしんすけが転がりました。体を起こして銀時を睨みます。 「あーもう、やめろっつの人の上で寝んのやめろっつの。死ぬっつの、10kgちょ いあるもんが胸の上一晩乗るのって結構辛いっつの。しかもおめー、ドンピシャ でみぞおちの上寝やがって」 銀時はぶつくさ文句を並べますがしんすけのふてくされたような態度は改まりま せん。 布団から抜け出したしんすけはいつも銀時の上で寝直すのです。それは銀時が仰 向けだろうが俯せだろうが横向きだろうが関係ありません。しんすけは器用にバ ランスをとりそこで丸くなって寝るのです。 子供姿のしんすけは標準的な重さをしています。15kgくらいでしょうか。計った ことはありませんが、とにかくそのくらいのものが一晩乗っているのは銀時にと って地味に負担なのです。 「中に入れって。な」 言いながら銀時は両腕をしんすけに伸ばしますが、しんすけはじりとその手から 逃れるように距離をとります。イラッとした銀時はぴくりと眉を寄せて薄闇の中 、しんすけとガチンコ睨み合いです。 「あーそうかい。もう知らねーから。おまえなんてその辺で震えてればいいだろ 」 そう言って銀時は頭から布団を被り膝を抱え丸くなります。 しんすけはしばらく様子を伺っていましたがやがて布団の上を四つん這いで移動 し、また銀時の上で丸くなります。銀時は何も言いませんでした。そうして夜が 明けようとします。 室内が外からの明かりで薄く染まる頃、しんすけは目を覚ましました。 「………」 そして銀時の上から下ります。枕元に移動すると布団をめくりもぞもぞと中に忍 び込みます。 しんすけが作った隙間から入り込む冷気に銀時が首を竦めます。それから表面が 冷たくなっているしんすけがぴたりと寄り添ってきたことにうっすらと寝ぼけた 目を開けます。 「あー…おま、冷てぇなぁ…」 言いながらしんすけを抱き締めてやります。しんすけもぎゅっと銀時にしがみつ きます。こうして二人は朝を迎えるのです。 新八に起こされて銀時は目を覚まします。銀時より寝起きのいいしんすけは新八 が来るのと同時にもう布団から抜け出していました。 夜中しんすけが体に乗っていたり、移動する度に起こされる銀時はあまり疲れが とれた気がしません。 「………」 難しい顔をしながら頭を掻き、諸悪の根源を見やります。銀時の視線に敏感に反 応したしんすけは振り返りました。目が合います。 あぁもう毎日起きた時は絶対にしんすけと寝ないと思うのに。あんなに目付きが 悪い凶悪な顔してると思うのに、見つめられるとどうにも弱いと自覚して銀時は 溜め息をついたのでした。 |