数日後、高杉はザルを被せられ簡易檻のなかに閉じ込められていた。 「てめっ、こら天パぁ!出せ!!こっから出せぇぇえ!」 あらんかぎりの力で叩こうとも上にジャンプを数冊乗っけられた状態ではびくと もせず金網が高杉の拳を弾き返すだけだった。 高杉の鋭い視線の先にいる銀時は飄々としている。 「いいじゃん、そのままで。あのでけぇ家も邪魔だしよ。あれ処分しておめー、 そこに住めば?」 「ざけんな!」 あんな家など別に愛着もないが、こんなザルの檻のなかで暮らすなど真っ平ごめ んだった。 ことの始まりは数時間前、万事屋に飛び込んだ1本の電話だ。 高杉は特別意識する事なく銀時の机に座り込んでテレビを見ていた。 銀時が文句を言いながらも何かを了承して、電話を切ってもぐだぐだ文句を言い ながらふらりと何処かに行くのも、高杉は少しも気にしなかった。 「?!」 かぽ、とザルを被せられて高杉は始めて銀時を見た。 「な…」 「重り重り…、これでいっか」 ジャンプまで乗せられて高杉の視界が暗くなる。 なんの説明もせず何処かに行こうとした銀時を高杉は引き止めた。 「てめぇ、何してやがんだ」 「ん、俺今から仕事なの。建築よ建築。屋根の上上んの」 懐に入れてて落としてもあれだし、神楽は遊びに行っていねぇし、新八は今日は サイン会あるとか言ってこねぇし。 ダラダラと言葉を連ねる銀時に高杉はジリジリとした。だからなんだというのだ 。 「おめーは此処で留守番だっつー話。でも勝手にまたいなくなられても困るから 、そこにいろや」 「な…」 絶句する高杉に背を向け、銀時はひらひらと手を振り出かけていった。 ぽつんと高杉一人がその場に残されてしまったのであった。 ジャンプが作る陰のせいでなんだか世界が薄暗い。気分までジメジメとしてくる 気がする。 しばらく抜け出そうと足掻いてはみたがジャンプの乗ったザルは持ち上げようと してもびくともしなかった。 仕方なく金網に凭れながら膝を抱えて銀時の帰りを待った。 が、しかし。半ば予想通りとでも言おうか。帰ってきた銀時は自分が閉じ込めて いった高杉になど目もくれずだらだらと疲れた身体を休めたりと日常生活を始め た。 「…おい」 「あー疲れた…。じじぃ、あれ絶対自分の過去美化してんね。若い頃の自分なら 出来たァ?んなわけねーじゃん。過去の人生美談3割増で脚色してんね」 「おい」 「にしてもダリぃな。明日もとかって銀さんんな暇じゃねーんだよ。行くけどよ 」 「おい!」 「ん?」 高杉の呼び掛けで、やっと思い出したとでも言わんばかりに銀時はそちらに目を むけた。離れている銀時を高杉は網のなかから見つめる。 「なんだよ」 「出せ。てめぇが帰ってきたんだからもういいだろ。早く出せ天パ」 高杉の要求にも、銀時はしばし黙って死んだ魚のような目を高杉を覆うザルに向 けていたが、何も言わず、なにもせずに顔を背けた。 「………」 「………」 二人とも黙り込む。部屋に沈黙が満ちた。そして最初のやりとりへと繋がる。 どんなに訴えても銀時がどうにかしようとする気配はない。 足掻いていた高杉も疲れ果て、今はもう網にもたれるようにして休んでいます。 「たーだいーまヨー」 ガラガラと元気な声をあげる神楽にも無反応で高杉は網のなかで大人しくしてい た。 「おぅお帰り。手ぇ洗えよ」 「分かってるヨ」 神楽は手を洗い戻ってきて、銀時の机の上にあるジャンプの乗ったザルを見つけ た。覗き込んで見ても中身は空っぽのように見える。 「銀ちゃん、これ何アルか?」 虫がたからないように食べ物にザルで蓋しているのは見たことあるが、中にはな にもなくおまけにジャンプまで乗っている。 「ん。気にすんな」 「てめ…!」 「ふーん。まぁいいけど。ただいまヨー。あれ?…ねー銀ちゃん、あの子何処ア ルか?お返事の合図がないヨ」 最近の高杉は神楽が話し掛けたら、何かものを叩くなどして反応を返してやって いたのに、ドールハウスに声を掛けてもなんの反応もない。 「だから気にすんなっつったろうが」 「?」 銀時のどうでもよさそうな態度に神楽は首を傾げながらまたなにとなしにザルに 目をやった。そして神楽の頭のなかで推測が始まる。 「あっ!」 あることに思い当たった神楽はすぐさま机のザルに駆け寄った。ソファで寝そべ っていた銀時も神楽が血相変えてジャンプを放り投げてザルを開けた瞬間、慌て て神楽の腕を掴んだ。 神楽の手が、高杉に迫る寸前で止まる。 「…おま、何しちゃってるわけ?今力加減とか考えてなかったろ。力の限り、机 叩いて探して、見つけたそいつ握り潰すところだっただろ」 「銀ちゃんが悪いヨ!こんなところにこの子閉じ込めるなんて」 はい、と摘まれた高杉を手の平をお椀にして受け取った神楽は銀時に叫んだ。高 杉一人、思わぬ形で訪れた命の危機に今だ高鳴る心臓を落ち着かせるのに精一杯 だ。 刀を向け合うことに抵抗も恐怖心もない。けれど、なす術もなく巨人に握り潰さ れかけることには、さすがに覚悟が出来ていない。 「あたしが帰ってきてよかったネー。よしよし、もう銀ちゃんの魔の手なんて忍 び寄らせないからネ」 頬を擦り寄せてしみじみと語りかけてくる、銀時よりある種高杉にとっては危険 な神楽に、高杉は顔をひそめながらもその柔らかな頬に手を伸ばして応じてやる 。手の平と頬に潰されるなんてごめんだ。 その様子を少し離れたところで見ている銀時は少女とまだ少し青ざめているテロ リストのやりとりに、ため息をひとつついた。 |