小さな高杉に合うよう小さく小さく切った湿布を貼ってやる。包帯も細く細く切 って巻いてやった。 途中力加減がわからず何度も痛いと声が上がった。ほとんど無視した。手当てし てやってるだけ感謝しろというのが銀時の思いだ。 すっかり痛々しい姿になってしまった高杉に銀時はちょっと可哀相だな、と思っ たが高杉だと思うと別にいいか、とも思う。 「で、なんでおめーそんなちまいナリしてんだよ」 さもめんどくさそうな口振りでそう尋ねれば手足に骨折等はないか確認していた 高杉がキッと銀時を睨み付ける。 「そんなん俺が聞きてぇんだよ。てめぇ、俺になにした!」 「あ?なんもしてねーよ。なんでそれ俺に聞くんだよ」 「こんなナリになってから、なんか知らねーけどてめぇが何処にいるか感じるん だよ」 「なにそれ。ちょっ、勘弁しろよ。っていうかなんで此所にいんの?」 「たまたま江戸に来てたんだよ。そしたら気付けばこの様だ。誰も俺に気付かね ぇし…、そうだ、てめぇ万事屋だろ。なんとかしやがれ」 「万事屋っつってもテロリストの依頼なんか受けたら俺捕まりそうじゃん。ただ でさえヅラのせいで目ェつけられてんだからよー。あ、このまま虫かごにでもい れて真選組にでも突き出しちまえばいいんじゃね?きっと幕府の研究所とかがな んとかしてくれんだろ」 「てめぇ俺を見捨てる気か!」 真顔で言われて高杉が吠える。小さくなってしまったうえに誰の目にも映らなく なってしまった今の高杉が頼れるのは幸か不幸か自分の姿が見える銀時しかいな いのだ。 「ったくうるせーな。真選組には突きださねぇでやっから、とりあえず其処でお となしくしてろ」 「わっ…!」 一面を切り取ったティッシュ箱に入れられ、その感触に高杉は銀時を見上げて言 った。 「安物だな。もっといいのねぇのか」 「おま、ざけたこと言ってると今すぐ窓から放り投げるぞコノヤロー」 疲れていたのだろう、しばしの間高杉はティッシュの箱のなかでおとなしく寝て いた。ティッシュが敷き布団、ハンドタオルが掛け布団代わりだ。 が。 銀時が仕事の依頼の電話を受けて高杉の存在を忘れかけていた頃、小さな声で呼 ばれてる気がした。高杉の存在を思い出して銀時が箱を覗けばいつの間にか目を覚ましていた高杉が言っ た。 「腹減った。なんか食い物よこせ」 「食い物っつわれてもなァ…」 こいつ何食べるんだろう、と銀時は一瞬思ったが、高杉は人間なのだから悩むこ とはないと直ぐさま思い至る。むしろ今一瞬、この10cmの高杉を人間として見て なかったことの方がどうかしている。 とりあえず台所に行ってお釜に残っていた白米を持ってくる。当然皿は通常サイ ズの人間用だ。家で一番小さい皿、醤油皿を使った。 だが量はどのくらいがいいのかわからず、とりあえず適当に盛った。 箸も今の高杉サイズのものがあるわけもない。当然素手で食べることになる。と りあえず濡らしたタオルを手拭きに置いてやる。 銀時にとっては一口にも満たない盛量だが高杉にとっては山盛りに近い。 湯気のあがるそれに高杉は恐る恐る手を伸ばすが熱くてなかなか触れない。 じっと縋るような目を銀時に向けるが銀時はテレビの結野アナに視線を注いでい て意にも介さない。 「おい銀時ィ」 「んだようるせーな」 「熱ィ。ってか多いんだよ」 「冷めるまで待ちゃあいいだろ。んでもって残すなよ」 「ざけんなよオイ」 「あーなんも聞こえねぇ聞こえねぇ」 「てめぇ…、俺が戻ったら覚えとけよ」 唸るようにそう言って高杉はまた山盛りの白米と向き合った。 高杉は山をなくそうと試みたが今の高杉の体長に対し、銀時が盛った白米は明ら かに比率がおかしかった。 まだまだ山は残っているが、高杉はもう食べられないと膨れた腹を抱えた。 「おい残すなっつったろー。夕飯もそれ出すぞ」 「夕飯までこれ放って置いたら固くなっちまうじゃねーか」 「しゃーねーだろ。おめーが食べないんだから」 「てめぇ、後で絶対ェ殺してやるよ」 そう唸るもののもう満腹で気持ち悪いほどだ。 摘まれまたティッシュ箱に戻された高杉はぐだっとおとなしく箱に凭れた。 「…銀ちゃん、さっきから独り言気持ち悪いアル」 「本当、どうしちゃったんですか?見えないものが見えてるなら本気で病院行き ましょうよ」 銀時と高杉のやりとりを遠くから見守っていた神楽と新八は恐る恐るといった様 子で銀時に声を掛けた。その表情は本気で心配している。 「あー…、気にすんな。今日一日は多めに見といてくれや。明日にはどっかに捨 ててくっから」 「オイてめぇ何言ってやがんだ。捨てるってなんだオイ、無視すんじゃねぇよ銀 時ィ、こらそこのクソ天パ」 キャンキャン吠える高杉に銀時は無視を決め込んだ。 数日経っても、高杉の姿は小さなままで相変わらず銀時にしかその姿が見えない 。 「いつになったら戻んだろうなァ。いい加減にしねーと俺マジに病院連れてかれ んじゃねぇ?」 「俺が知るかよ。ついでいうとてめぇが病院にぶち込まれようが俺にゃ関係ねェ 」 「あ、コノヤロー。おめーがいなけゃ万事OKなんだよ。ガキどもの視線に哀れ みが込められてきやがって…あーヘコむわ」 嘆きながら銀時は湯船に顔を沈めぶくぶくと泡立たせた。 そんな銀時を高杉はお椀に腕をかけて見下ろす。 銀時が風呂に入りたきゃ勝手に入れという態度をとった結果、高杉が風呂で溺れ かけるという事態が起こったため、それ以降高杉は銀時と同じ時にお椀を湯船に して風呂に入っている。 銀時にとっては窮屈な風呂も、高杉にとっては大海原だ。 しかも飛び込んだら最後、湯船は滑って自力で上に上がれない。たゆたっている にも限界があり、力尽きかけたところを銀時に救われた。 「はー…。…あいつらにも、事情説明すっか…」 独りで高杉をかくまっているのも限界だ。 自分は幻覚を見ているのではないということを、きちんと説明しようと銀時は心 に決めた。 |