高杉が銀時のところに来て、数ヶ月が経とうとしていた。
その間高杉が元に戻る気配はない。そのため陰欝とした心は尖り、 世界を見下ろす綺麗な青空にさえ馬鹿にしているのかと高杉は内心で毒づいた。
「…もうよ、おめー直らねぇんじゃねぇの?それ」
だらだらとどうでもよさそうに銀時は高杉を見ずに言う。高杉も窓の外に視線を向けたまま返事をした。
「馬鹿なこと言ってんじゃねぇ。直る。俺ァまたでかくなんだ」
「でかいって、元々ちっちぇえじゃねーか。たいして変わんねぇだろ。10cmも170も」
「じゃあてめぇがなれ。っつかてめぇ今さりげなく俺のこと馬鹿にしたろ。たかだか7cm差をてめぇは今馬鹿にしたろ」
「してねぇし。大体チビにチビとは言わねぇよ。でもおまえ7cmのでかさわかってねーな。今のおめーから7cm引いてみ? 3cmだよ3cm。7cmって偉大だろうがオラ。7cmに謝れ今すぐ土下座して謝れ」
「誰が謝るか馬鹿」
言葉の応酬はそこで一度止み、部屋は沈黙で満ちた。
今、神楽や新八は万事屋にはいない。だから気兼ねなく互いに言葉をぶつけ合える。
二人がいる状態、特に神楽がいる時に銀時が高杉を悪意なく虐げていると決まって神楽が怒り出し銀時の立場が悪くなる。
それ故に銀時は二人きりじゃない時は神楽の目に映らない高杉がニヤリと笑うのを歯を食いしばりながら 見つめることしか出来ないのであった。
なんとなく二人して黙り込み、時が流れていくのを時計の音で感じる。
不意に銀時が口を開いた。
「…もしこのまま誰の目にも映らずそのちんまいナリでいるようだったら、てめぇはずっと此処にいんのかよ」
「………」
高杉は答えない。ただじっと何処か空の向こうに空を見ていた。



こんな日々が何時まで続くのだろう。
だがしかし先の見えない迷路のような状況は、ある日劇的に変化した。



「………」
普段なら元気よく高杉のいるドールハウスに向かって声をかける神楽が、目を丸くして固まっていた。
「?どした?」
「…銀ちゃん…、なんかいるヨ…」
「は?」
「なんかいるヨ!」
ほらっ、と突き付けられた手は近すぎて一瞬焦点が合わず、やがてその中にいる高杉が目を丸くして固まっているのがわかった。
「…は?」
「あの子の家になんかいたネ」
「え、あ?…おまえ、見えてんのか…?」
「?」
高杉は神楽の目にも映るようになっていたのだ。



「おまえだったアルか。あーぁ、よくも乙女の純情を弄んだアルな」
「うるせぇよ。こんな酢コンブくせぇ乙女なんざいねぇ。大体誰がてめぇの 落とした酢コンブ拾ってやったと思ってんだ。もう二度と拾わねぇからな」
「いいモン。おまえになんか頼まないネ」
姿が見えるようになって、掌を返したように高杉に冷たい神楽と高杉は バチバチと睨み合いの冷戦を繰り広げている一方、銀時と新八はどうしたものかと考えていた。
「つまり、銀さんがここに置いてたのはあの、高杉さんだったってことなんですね」
「まぁそういうこった」
「なんでまた…」
「知らねぇし」
新八にも高杉の姿が見えるようになっていた。どうやら他の人全て、高杉を認識出来るようになったようだ。
「でも、なんで見えるようになったんでしょうか」
「さぁな。俺が知りてぇよ」
神楽といがみ合っている高杉に視線を向ける。自分しか頼るものがなかった 彼が今はもう誰の目にも映るものになってしまった。
それがなんとなく、面白くない。
「まぁこれで俺が元に戻る日も近そうだな」
目を離した隙、いつの間にか神楽との会話をやめていた高杉がニヤリと笑う。
「元に戻れた暁にゃ、世話になった礼、たっぷりさせてもらうぜ、なぁ銀時ィ…」
「あ、マジで?悪ィな、じゃあ家賃で頼むわ。3ヶ月分、や、12ヶ月分で」
「てめぇに選択権はねーんだよ」
ニヤニヤと笑う高杉は誰の目にも映るようになったことで自分の立場がより一層悪くなったことにまだ気づいていなかった。