「ヒバリ」
呼ばれて目を向ければ声の主はマメだらけで僕の手より少し大きな手を差し出さ れた。
「何?」
「手、繋いでみてーなーって思って」
「………」
ニコニコと笑いながら告げられた言葉に僕は黙って彼を見つめ、目を逸らした。
「嫌だよ」
「どしても?」
「どうしても」
「ちぇっ」
彼は初めから大して期待していなかったようでそれ以上食い下がることもなく手 を引っ込めた。
それきり会話が途切れて、互いに視線も向けずにいる。
「なぁー」
「何」
「1回でいいから手繋いでくれよ」
「嫌だ」
「絶対?」
「絶対」
僕と手なんて繋いで何が楽しいんだろう。
なんでそんなことしたがるのか僕にはよく分からない。
だから聞いてみた。
「なんで君はそんなに手を繋ぎたがるの」
「なんでだろ?よくわかんね。でも、なんか手ェ繋ぎてぇんだよな」
「なにそれ。答えになってないよ」
「ははっ、だな。でもほんと俺にもよくわかんねぇんだ」
「………」
変な奴。前から思ってたけど、それを実感する。
「ヒバリは?」
「………?」
「ヒバリはなんで俺と手ェ繋いでくれねーの?」
「………」
何気ない口調の中、彼の目だけが真剣さを隠せずにいる。
その視線を受けて、僕はしばらくその瞳の奥にあるものを見つめていたけれど、 ふいと目を逸らした。
「別に、理由なんてないよ」
「そうか?じゃあ別に手ェ繋いでくれたっていいじゃねーか」
「絶対嫌って言ったよね」
あんまりしつこいと殴るよと言ってやれば殴られてもいいから手を繋ぎたいと彼 は言った。
「馬鹿だね」
「そんくらいマジに手ェ繋ぎてーの」
「でも嫌」
そう断言してやれば、大してへこんだ様子もなく笑う様はいつもと変わらないよ うに思える。だけどわかりづらいが確かにガッカリはしているようで、普段より もなんとなく覇気がないように感じる。
途切れた会話を繋ぎ直す術を僕らは持たなくて、二人して黙り込んだ。
『繋いだ手を一生離さないと言えるなら、手を繋いであげてもいいよ』
その一言を僕は飲み込み、ついに口にすることはなかった。



手放しちゃうのはいやだから、僕は君と、手をつながない。
なんて、言えるわけがない。