星の灯りを掻き消すほどの月明かりが、道に一つの影を伸ばしていた。長く伸びたそれは、やけに歪でふらふらと揺れ頼りない。夜の帳に包まれた世界は寝静まっている。そんななか、やけに間延びした明るい声が響いていた。
「あ〜…、ちょっと飲みすぎたかもなー」
「かもじゃなくて君は飲みすぎだよ」
「ハハッ、調子乗りすぎたかなぁ」
影は一つなのに、二人分の声がする。少し頬を赤くしながら笑う山本は自分の足で立って進んでいるが、その足取りは覚束ない。それに対してヒバリは特別面白くもなさそうに、ぷらぷらとその両足を浮かして揺らしていた。
ボンゴレの会合があり、十代目ファミリーが集結した。珍しくヒバリが来たこともあってか、山本の酒をあおるペースはいつもより早く、気がつけばすっかり酔いが回ってしまっていた。
山本は自分でも酔っているという自覚があった。けれど、それと自分が行ってしまう行為と言うのはまた別の判断が働いていて、心配する綱吉を他所に酔っているヒバリをちゃんと送り届けるからなどと口にしてヒバリと共に帰路についていた。酔っていて転んだら困るからと平然とした様子のヒバリを傍目から見ても酔っ払っている山本がおぶっている様は少しシュールだった。
しかしやっぱり車を出すという綱吉の提案を却下したのはヒバリの方で、二人は少し冷めた空気の中、月だけが照らす道で一つの影を落とし続けている。
「さっきから危なっかしいな。転んだら咬み殺すよ」
「大丈夫だってぇ。俺が身を呈してヒバリのこと守るのな」
「当然だよね」
「あれ、もうちょっと感動とかなんとか」
「するわけないだろ」
おかしいなぁと首を傾げて笑う山本に、ヒバリは冷めた視線を向けていった。
「君、いつもそんなこと考えながらいろいろ発言してたわけ?」
案外あざとくて変態だねと無感情に吐き捨てたヒバリの口元は吊り上っている。その微笑を山本は見ることが出来ないけれど、それでも山本も笑いながらふらりふらりと歩き言った。
「ハハッ、そうだなぁ。あんま意識してなかったけど、狙ってたのかなぁ。俺って変態だったのなー」
自分がどんな発言をしているのかを理解しているのかいないのか、山本はあっけらかんと笑いながらそんなことを言った。それに対して、背負われているヒバリも山本の表情が伺えない。ようやくそれに気がついたらしいヒバリは山本の肩に顎を乗せて唇を尖らせてみたけれど、やっぱりその顔を山本が見ることはなかった。
山本が笑いながら、またなんでもないことのように言う。
「俺変態だからなー、家に着いたら風呂入って酔いさまして、ヒバリにちゅーとかしてーなー」
ヒバリはすぐに返事をしなかった。
「? ヒバリ?」
なんの反応もなく、しんと静まり返った空気に山本はヒバリの様子を伺おうとしたけれど、山本の顔のすぐ真横に顎を乗せられているため振り返ることもできない。
しばらくして、つんと山本の頬が突かれた。くすりと笑った吐息が山本の鼓膜をくすぐった。
「変態な君が、ちゅーだけで済むの?」
揶揄する口調の中に、明らかな愉悦の色が混じっている。きっといい笑みを浮かべているであろうことが容易に想像できて、山本は振り返りたかったけれど顔を前向きに固定されて、やはりそれは叶わなかった。
ぶらりとヒバリが足を揺らす。そして言った。
「でもまぁ、付き合ってあげるよ」
普段のヒバリならば絶対に出ないであろう言葉に、山本はしばらく目を瞬かせていたがやがてゆるゆると破顔した。



(酔っぱらってるのはどっち?)