歪んでんのかもしんねぇけど、それでも確かに愛してんだよあんたのこと。



ヒバリを見つめてると、言い様もない衝動に駆られるんだ。
「ヒバリ」
そう呼びかければヒバリは返事をすることなく視線だけ俺に向けた。
ヒバリを見つめたまま、俺は俺を急き立てる内なる俺の声に従い、そっとヒバリに手を伸ばした。
ヒバリは黙ったまま俺の手を目で追って、それから俺に視線を移す。真っ黒な目。真っ直ぐな目。
その目に映る俺は笑ってた。それはそれは歪な笑みだった。
細く白いその首に手を掛ける。ギリギリと指先から力を加えていってもヒバリは一切抵抗しない。ただ冷ややかに俺をその目に映したまま、身動きの一つもしない。
ずっと俺は力を込め続ける。色を失っていくヒバリの薄い唇。それでもヒバリは俺を見つめてた。何の感情も見せずに、無表情のまま。
どのくらいそうしてたか。
そんなヒバリが不意に俺に笑いかけた。少しだけ唇を吊り上げて目を細めて、細い指先を俺に伸ばして輪郭をなぞるように俺の頬を撫でた。
綺麗な笑みだった。何一つ欠けることも歪むことも知らない、美しさを湛えている笑みだった。
俺を映してた目に感情が宿る。透けて見えたのは、ヒバリの俺に対する優越感。
俺は手を放した。
ヒバリは俺が今まで締め付けてた首筋に手をやって俯いて咳き込んで、不足してる酸素を取り込もうと身体が一生懸命になってた。
ヒバリの指先、首筋に残る俺の手のあとを俺はじっと眺める。
「………ごめん」
俺はいつものように小さくそう呟いた。そう、いつものように。もう何度目かわからないこの行為。
おまけに回を重ねるごとに、指先に力を込めている時間が確実に長くなってきてる。
不意にわき起こる衝動に逆らえず俺は無意識のようにヒバリに手を伸ばしてしまう。そして首にかけた指先に力を込めてしまう。
不器用な俺の愛の形。いつかヒバリを殺してしまいかねない、そんな俺の愛の形。
毎回、ヒバリはそれに抗うことはない。受け止めてくれるかのように無抵抗のまま、ただ歪みきった俺をその目に映して俺に見せつける。どれだけ俺が軋んでいるかを。
今日みたいに笑ったことはなく、今日が初めて。
ヒバリの呼吸が整ってきて、静寂がじわりじわりと押し寄せて来る。
俺もヒバリも口を開かなくて、ヒバリは俺を責め立てることはなくて、沈黙が痛い。
「どうしてだろうなぁ…」
俺はぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。ヒバリは俯いたまま俺を見ることなく黙っている。
「俺すっげーヒバリのこと愛してんのに」
どうして俺はこんなことしたくなるんだろ。一歩間違えばヒバリを失いかねないのに。
これが俺の愛し方、と言ってしまえばそれまでだけれど。
どうしてヒバリは抵抗の一つも見せないんだろ。一歩間違えば自分が死ぬかもしれないのに。
再び重くのし掛かった沈黙を破ったのは、ヒバリだった。
「愛してるなんて、よく言うよ」
嘲笑うような声だった。俯いたままで、俺からはよく表情が伺えない。
「ホントだって。ホントに俺ヒバリのこと…」
「愛してるなんて言わせないよ」
俺の言葉をヒバリは遮った。顔をあげて俺をせせら笑うようにして見つめる。その目は俺を見下しきっていた。
俺は胸が苦しくなった。ホントなんだって。俺はホントにヒバリのこと愛してる。
間違った愛し方かもしれない。でも愛してんだよわかってくれよ。
「君にとって、殺意と愛情は一緒くたになってるんでしょ」
そんなことわかってるよと言いたげなヒバリに俺は口を挟めない。
ヒバリは侮蔑の色を濃くして言葉を続けた。
「君は僕を殺せない」
それが全てだ。
そう言い放ったヒバリはどこか遠くを見るように俺を見つめてたら、距離を埋めるかのように俺を引き寄せて乱暴に口付けてきた。
すぐに唇を離して、吐息が混じり合うほどの至近距離で俺を射抜くような目をして微笑し言った。



「証明してよ。僕を本当に愛してるって」

『そう、一思いに僕を殺して。それが君の愛の証明』

あぁ、歪んでる俺たちの求めるものは永遠に重ならないのだろうと、俺は少し哀しくなって、ヒバリにそっと口付けた。
歪んでたのは俺の愛し方だけじゃなく―――。