ねぇ山本武。僕は君が思ってるよりも、ずっとずっと君のこと愛してるよ。
愛しくて愛しくて、いつか君のこと殺してしまいそうなくらいに。

「殺意にも似た愛情をかき集めて あなた一人にあげる」

いつものように、彼はまた他愛ない話を僕の前で始める。
いつものように、僕はそれを聞き流して適当な空返事を彼に返す。
「…聞いてる?」
「聞いてないよ」
いつものように、彼はそれを嘆いて溜め息混じりに言う。
「愛が足りねぇ」
冷たい、と言う彼にいつもなら足りないんじゃなくてないだけだよと返すんだけど、今日は、いつもとは変えてみようか。
「そんなことないよ」
君のこと、僕はちゃんと愛してる。
そう告げてやれば彼はぽかんと呆気にとられた顔をして、それは僕から見たらすごく間抜け面だった。それから彼は我に返って「マジ?」と尋ねて来た。
僕は黙って笑って頷いてやる。そしたら彼はまだ信じられないような顔をしたまま、引きつった笑みを浮かべた。
其処まで驚かれるのも心外だったけど、指先でこっちに来るよう促せば彼は素直に側に来た。僕は近寄ってきた彼のネクタイを引っ張り引き寄せてその唇に口付けた。
押しつけるだけのそれは一瞬で唇を離して、僕は彼を僕の前に膝を突かせて僕を映す目を手で覆った。
「目、閉じて」
「随分と積極的だな」
彼の右手を絡め取ってキツく握り締めていつもと角度の違うキス。いつもは彼がキスを降らすけど、今日は違う。僕の方が高い位置と言うのはなんだか変な気分。
僕は目を開けたまま彼の顔を見つめながら舌を絡める。
ねぇ山本武。僕は本当の本当に君のこと愛してるんだよ。別に信じてくれなくても構わないけど。
懐から取り出した銃を、彼の顎の下に押し当てた。
その感触に、彼が目を開けた。僕は唇を離した。
「…なに?俺のこと嬉しがらせといてそういうオチ?」
彼はあからさまに落胆の色を示したけど、小さく左手をあげて、予測してたのかやれやれといった苦笑混じりだった。
僕はそんな彼を目に映して薄く笑う。
「言ったよね。君のこと愛してるって」
愛してるから、殺してしまいたくなる。僕をその目に映す君はもう他の誰も何もその目に映すことはなくて、僕は君の最期をこの目に焼き付ける。
君を愛するうえで、これ以上を望まないよ。
彼は困ったように笑って視線を彷徨わせて、それから僕を捉えた。
「あの、まーだ殺さないでもらえると助かるんだけどなー。ちょーっとばかし、まだこの世に未練あるし」
「そんなの僕には関係ないよ」
「いやいやいや、ちょっ、待ち。だってまだ俺はヒバリを愛したんねーもん」
だからまだ死ねないと言う彼の顎の下にはずっと僕の銃が突き付けられてる。
「………」
な?と機嫌を伺うような彼を見つめながら、僕は銃を彼から離した。
彼はホッと命拾いしたというわけでもなくケロリとしたまま「サンキュ」と笑った。
最初から、僕が君を殺すと思ってなかったのかな。引き金を引いてしまえば良かったと思う。
ついでに繋いでいた手も離して彼を解放する。
僕はふいと彼から目を逸らしたけど、彼はそのままその場に膝立ちで僕を見つめていた。
「…いつまで其処でそうしてるの」
もう手も離したんだから、好き勝手他のところ、さっき座ってた所とかにちゃんと座ればいいのに。
僕がそう言えば彼は曖昧な返事を返して、それから立ち上がってまた元の場所に戻った。
戻っても僕をじっと見つめてる。僕は彼から顔を逸らしたままだから視線は一方通行。
それでもずっとじりじり感じるのは居心地が悪くて僕はちらりと彼に視線を向けて問い掛けた。
「なに?」
「ん、いや…」
またしても曖昧な返事に僕が睨むように視線を送っていると、彼の表情がじわじわと変わっていく。
そうして彼は嬉しそうに笑った。





「愛されてるのな。俺」


『それがあんたの愛ならば、たとえ撃ち殺されても俺は後悔したりしないよ』