ヒバリは窓辺で月を見上げていました。綺麗な三日月が輝いています。今日は絶 交の散歩日和です。 すっと室内に目を戻して、僅かに眉間にシワを寄せました。 ヒバリの視線の先で、山本が本を読んでいました。 「…最近毎晩本読んでるね」 「ん?ん、あぁ」 ヒバリの言葉に山本は一瞬顔を上げ、またすぐに本に視線を戻しました。 「それもいつもの雑誌じゃないやつ」 「学校のレポート仕上げなきゃなんねーからな〜」 だから読まなきゃいけねーの、という山本にヒバリは冷たく言い放ちます。 「気持ち悪い」 「えぇー…、そりゃねーよ」 「似合わないよ。君にそんなの」 「まぁ俺もそう思うけどな」 単位落としたら大変だし、という山本にヒバリは首を傾げます。ヒバリはまだ学 校の仕組みをよく理解していないのです。 山本は簡単に、試験かレポートで一定の点数取らないと単位ってものがもらえな くて卒業出来ないんだと教えてやりました。 そんな説明を受けても、別に卒業することの重要性を特別感じないヒバリは「ふ ぅん」と気のない返事を返すだけです。 此所のところ山本は散歩にもついてこないしバイトもしていません。 ヒバリが一人散歩に出て、夜が明ける前に帰って来ると机に突っ伏して寝ていま す。 ヒバリはそれを横目に見ながら一人布団に入って丸くなって眠るのです。 机に置かれた耳元の目覚ましが朝を告げて、山本はへろへろと目覚めて真っ暗に なった画面をキーボードを叩いて起こします。それからまた画面と睨めっこする のをヒバリはこっそり見ていました。 やっぱり人間ってよくわからない。ヒバリはそう思います。 山本は明らかに好き好んで作業しているようには見えません。嫌ならやらなきゃ いいのに。卒業出来なかったらなんだっていうんだろう。今の生活が続くだけじ ゃないか。 「………」 ヒバリは窓の縁に頬杖をついて室内の山本を眺めます。 うー、とか、あー、とか言いながら山本はカタカタキーボードを叩いていました 。そのうちばったりと後ろに倒れます。 「あー、ダリ…」 だらだらとしだした山本を見つめ、ヒバリは先日リボーンに会った時のことを思 い出しました。 『何してるの?』 『ツナがレポートやテスト勉強をサボったときのために念入りに武器の手入れし てるんだぞ』 そう言うリボーンの横にはピカピカの武器がごろごろ転がっています。 『それでどうするの?』 『もしツナがサボったら、ドカンだ』 『ふーん…』 ニヤリと、とてもいい笑顔を見せたリボーンがありありと思い出せます。 「………」 それからヒバリは山本を見やります。まだ寝そべっています。 そんな山本に近付いて、机に腰を掛けました。 「ん、どうしたヒバリ。散歩いかねーの?ってか机に座っちゃダメだろ〜」 「早く起きなよ。殴るよ」 「は?」 物騒な言葉に山本が体を起こします。自分を見下ろすヒバリと目が合いました。 「リボーンの真似をしてみようと思うんだ」 「ん?」 「ほら、早く始めなよ。殴られたいの?」 「え、え?あ、あぁ」 ヒバリの目が本気だと物語っていたので山本は慌てて放り出していた本を読み始 めます。 ちらりとヒバリの様子を伺います。 リボーンの真似をする? 山本はふと、締切り前だというのに憔悴しきったツナの言葉を思い出しました。 『リボーンが横陣取ってさ、リボーンが定めた期日までにあげないといけなくて …』 顔面にも青痣を作って遠い目をしたツナが印象的です。 「………」 先ほどの脅し文句といい、つまりヒバリもそんな感じのことをやるつもりだとい うことなのでしょう。 散歩にもいかず自分のことを考えてくれるのはうれしいのですが、殴るのは勘弁 して欲しいなぁと山本は思いながら活字に視線を滑らせていきました。 深夜3時。山本の部屋の電気は煌々と室内を照らしています。 ピンピンしている夜行性のヒバリの横で山本がくたばりそうになりながら画面を見つめて います。 「3秒以内に背筋伸ばさないと噛み殺すよ」 ヒバリのそんな言葉に山本はしゃんと背筋を伸ばしますが、すぐぺしゃんとなっ てしまいます。 元々朝型の山本。ナイターのため以外では毎日早寝早起きの習慣があります。 確かにヒバリと散歩に行くために夜更かしするようになりましたが、三つ子の魂 百まで、そうそう習慣は変えられません。 ヒバリに何度も脅されながら、それでもなんとか仕上げたレポートはきっと文章 になってないだろうなと山本はぼんやり思いました。 きっとリボーンはその内容まできっちりチェックを入れているのでしょうが、形 だけ真似をしたヒバリはそんなことしていません。 「終わったー…」 山本はばったりと机に突っ伏します。ヒバリはそんな山本を見下ろします。 「次はテスト勉強があるんだろ。リボーンが言ってたよ」 「や、それはまだいいから。今日はもういいから。マジ」 「今度そっちの話も聞いといてあげるよ」 「うわぁー…愛されてるー俺…」 「寝言は寝てから言ってくれる」 このまま寝たい、そう思いながら山本は頭を動かし視線をヒバリにに向けました 。 「なぁヒバリ。テスト終わったらよ、俺も夏休みだから。いろんな所行こうな」 夏休み。ヒバリには聞き慣れない単語ですがニュースで散々出て来た単語なので 意味はちゃんと山本に聞いて知っています。 「いい点とれたら付き合ってあげるよ」 「…それも小僧の受け売り?」 「そうだよ」 「うわぁ…何教えてんだよ…」 山本一人でヒバリに人の世界のことを教えると知識が偏る可能性があるから、み んな協力してくれと言ったのは山本ですがなにもそんなことまで教えなくてもと 山本は少しリボーンを恨みます。 でもまぁ成績が出るのなんて先の話だし、ヒバリにはわかんねぇだろうと山本は こっそり悪巧みです。 「んじゃ、頑張るかな」 ヒバリとのエンジョイ夏休みライフのために。 山本はそう決意しつつも今日はもう寝ることにしたのでした。 |