ヒバリが山本に隠れてなにやら作業をしています。
山本に背を向けてガリガリと何かを書き、ハサミを使いホッチキスで留めていま す。
山本はそんなヒバリの後ろ姿をしばらく見つめていましたが、やっぱり気になる のです。
「何してんだ?」
「! 見ていいなんて言ってないよ」
「〜〜〜っ!!」
山本が後ろからヒバリの手元を覗き混もうとしたら、さっと左手で物を隠され右 手で殴られました。
山本が痛がっている間にヒバリは両手と体でその物を隠します。ドツボを突いて しまったらしく、今だ悶絶している山本を見下ろして言い放ちました。
「あと少ししたら見せてあげるよ」
「痛ー…。…それまで待てってか」
「そう」
「ふーん。ま、いいや。ハサミで怪我すんなよ」
「しないよ」
ヒバリが自分の意思で何かするなんて珍しいと思いながら痛むみぞおちをさする 山本なのでした。



数日後。
「あげる」
「なにこれ」
手渡されたものは5枚綴りの紙。
何かと思って見てみると、手書きで「おつかい券」やらなにやらがあります。
「プレゼント」
素っ気なく言い放たれた言葉に山本は目を瞬かせながらヒバリを見ました。
「俺に?」
「他に誰がいるの」
「ヒバリが?」
「文句ある?」
「いや、ない。なぁヒバリ」
「なに」
「ありがとな。すっげぇ嬉しい」
「………どういたしまして」
心底嬉しそうに山本が笑ったのでヒバリは少し視線を逸らしました。まさかこん なに喜ばれるとは思っていなかったのです。
ことの始まりは数週間前、山本とツナの家に行った時でした。
リボーンが何か書いていました。
『何を書いてるの』
『ママンへのプレゼントだぞ』
『プレゼント…?』
『日頃の感謝を込めてお手伝い券だ』
『そんなのもらって嬉しいの?』
『ママンなら喜んでくれると思うぞ』
『………』
リボーンの隣りに座ってヒバリも一緒に書き始めたのでした。
「じゃあ早速使わせてもらうな。この肩叩き券っての」
「いいよ、肩を叩けばいいんだね」
くるりとヒバリに背を向けた山本でしたが、次の瞬間肩甲骨辺りに衝撃を受け、 つんのめりました。
予期せぬ攻撃に無防備だった山本はダメージが桁外れです。
「ヒバリ…、なにすんだよ」
「なにって、肩叩き」
ヒバリは拳を握り、何処となくファイティングポーズです。
「ヒバリ違う。それ肩叩きじゃなくて肩殴りなのな。肩叩きってのはこう、軽く 肩を叩くもん」
「軽く、ね」
「………なんか怖ぇな」
山本はそう言いながらもまたヒバリに背を向けます。
ヒバリは自分の握り拳を見て、それから視線を山本の肩に移します。
「このくらい?」
軽くと言われたので蚊も殺せぬ程軽く叩きました。
「もっと強くてもいいぜ」
「………」
ヒバリは先程より力を入れます。
ガツンと、先程の何十倍何百倍の力でした。
「〜〜〜っ。ヒバリ…、それ強すぎ」
「君、一々うるさい」
「や、だって…。あー、うん、もういいや」
「そう」
ヒバリは拳を納めます。
山本は自分で肩を揉みながらぐるぐると回しました。ヒバリに力加減を今説明す るのは難しいと判断したのです。追々教えることにしました。
ぺらぺらと他の券を見た山本は残りの4枚のうちの1枚に目を止めました。
「あ〜、じゃあこのマッサージ券っての」
「もうやだ。君注文ばっかだから」
「え〜、じゃあもうこの券使用不可なのかよ」
「………」
ヒバリはふてくされたように唇を尖らせてそっぽ向いています。
少し悩んでいるようです。せっかく作った券ですから、どうせなら使ってもらい たいけれど、口うるさくいろいろ言われるのは不愉快。相反する気持ちがせめぎ あいます。
「ヒバリ?」
「…やってあげるよ」
「マジで?やった。じゃあ腰な」
俯せに横になった山本をヒバリはじっと見下ろします。
また叩けばいいのかな、そう思ったとき山本の本能は何かを感じたのか、山本は 顔をあげました。
「あ、足でやってみてくんねぇ?」
「足?」
手じゃ肩の二の舞いになるかもと山本は思ったのです。
「そ。腰に足乗っけて、徐々に体重掛けてってみてくれよ」
ヒバリの体重なら全体重が掛かっても大丈夫だろうと山本は考えたのです。
「わかった」
ヒバリは横に立つと片足を山本の腰に乗せました。じわじわと力を込めていきま す。
「もちっと体重掛けて。あー、そこそこ」
「此処?」
ヒバリは首を傾げながら言われるがままそこに爪先で力を加えます。
「そうそこそこ。あー、いい。そこいい。そこもっと強くグリッとやっちゃって 」
「こう?」
踏みにじるように圧迫します。
「うんそう。ヒバリマッサージは上手いのな」
「………」
これは上手いと言っていいのでしょうか。ヒバリはただ踏んでいるだけです。
「やべー、これクセになりそう。ヒバリー、券なくてもまたやってくんね?こう やって踏んでくれるだけでいいから」
「…気が向いたらね」
「あ、ヒバリにもマッサージしてやろうか」
「僕は君に踏まれたくなんかないよ」
自分なら嫌です。いくら気持ちがいいのだといえ人に踏まれるなんてまっぴらご めんです。
「ちゃんと手でやるって」
「別にいい」
「そか」
会話の最中も踏まれっぱなしの山本はまたうだうだと奇妙な声を上げます。 ヒバリはそれを見下ろしながらぐりぐりと踏み続けていました。



後日。
「ヒバリさんからのお手伝い券どうだった?」
事情を知っていたツナは山本にそう尋ねました。
「ん、もう最高だな。ヒバリの体重ちょうどよくってよ、踵で踏みにじるように 踏まれると気持ちいいぜ」
「踏みにじ…?」
笑顔で山本は何を言っているのかとツナは眉を寄せます。
ヒバリがリボーンと作っていた券は肩叩き券だの皿洗い券だの微笑ましいものだ ったはずです。踏んづけるなんてものはなかったはず…。
そんなツナの胸中も知らず山本は笑っていいました。
「そ。だから全部変えてもらったんだ。マッサージ券に」
「あ、マッサージね。そっか、そうだよね。あはははは」
「? おう」
間違った方向に進んだ自分の考えを笑ってツナはかき消します。
「皿洗いとかよ、ヒバリなら皿割りかねねぇしさ」
「あ、そうかもね…」
「まぁ割るのは構わねーんだけど、破片で怪我したら大変だろ。なーんか危なっ かしくてさせらんねぇんだよな〜」
山本はヒバリを随分と箱入りに扱ってるのだなとツナは思いました。。山本、娘 とか出来たら溺愛しそうかも、ともはほんのり思いました。口には出しませんで したが。
「ツナも今度やってもらったらどうだ?マジ気持ちいいから」
「お、俺は遠慮しとくよ」
「そっか〜?」
ニコニコ笑顔の山本を見ながら、ヒバリのところに行っているハズのリボーンは ヒバリからどんな話を聞いてるのだろうと思いを馳せました。



「ちゃおっス。ヒバリ、お手伝い券、山本は喜んでくれたか」
「やぁリボーン。うん、多分喜んでたよ」
「多分?」
ヒバリの言葉にリボーンは首を傾げます。
「全部マッサージ券に変えられた」
「そうか」
まぁヒバリに皿洗い等々が出来るとはリボーンも思っていなかったので山本の判 断は妥当だと感じました。
「にしても、人間てみんなああなの?」
「ああってなんだ?」
「踏まれて気持ちいいなんて。僕には理解出来ないよ」
「………」
「まぁ踏むのなんて楽だからいいんだけどね」
「………」
なんで踏む?リボーンは心の中で思いましたが口には出しませんでした。
「リボーンも踏んであげようか」
「俺はいいぞ」
「そう」
人間は踏まれたいのだとヒバリは間違って理解し始めている。
これはなんとかしなければならないとさすがのリボーンは思ったのでした。